公開: 2023年4月3日
更新: 2023年6月12日
プラトンは、個々の例に隠された問題は、本当の問題ではないと考えました。プラトンが「議論する価値がある」と考えた問題とは、一つ一つの例に隠れた特徴を、個々の例の中から抽出し、そのようにして見出した特徴に名前を付け、抽象化したものが、本当に議論する価値のある問題であるとしました。例えば、様々な人々が経験している問題の中に、共通する問題の性質で、「生き方の質」と言う問題が考えられます。つまり、人々の様々な「良い生き方」や、「悪い生き方」の例を見て、整理することで、「生き方に質の違い」があることを、抽出することができます。
このような考え方に基づいて、プラトンは、「質」と言う概念を取り出して、それを議論することが、哲学者にとって重要な問題であると主張しました。これが、「質」概念の起源です。この質が何であるかを明確にしなければ、良い生き方や悪い生き方がどのような生き方であるのかを、詳しく語ることはできません。プラトンが、「質」と言う言葉を発明した後、アリストテレスを含めた哲学者は、ソクラテスが説いた「善」を、質の問題として議論するようになりました。
ところで、アリストテレスは、「質」について説明し、その言葉を使って、物事を説明しましたが、そのような概念(イデアと呼びます)そのものは、存在しないと考えました。それは、単に、説明のために人間が作り出したものであって、それ自身が存在するものではないと考えたのです。これは、数学の「点」や「線」と似ています。数学の点は、ある位置(座標)にあって、全く大きさを持たない、座標だけが存在するものです。現実には、大きさがなければ、空間に存在することはできません。しかし、数学的には、点に面積や体積があっては、座標が定まらないので、不都合なのです。例えば、天の星は、実は巨大な球ですが、その位置を議論する時は、その球の中心点だけを問題にします。